中部大学

中部大学の宮本教授、SSDMに採択された研究において、CloudTesting™ Serviceを採用

中部大学の宮本教授の研究グループが作成した論文が、半導体と材料に関する著名な国際学会であるInternational Conference on Solid State Devices and Materialsに採択されました。
宮本教授は、その研究にてCloudTesting™ Serviceを利用されています。研究の内容や成果、CloudTesting™ Serviceの用途などについて、宮本教授に詳しく話を伺いました。

研究の要旨

Cloud Testing Service(以下、CTS): 発表された論文のタイトルは「Field Test of Dye-Sensitized Solar Cells (DSSC) by utilizing a Power Delivery CMOS Integrated Circuits」ですが、この研究の概要を教えていただけますでしょうか。

宮本教授: 通常の太陽電池では、発電素子の不良やバラつきの影響を抑えるために、Figure 1のようにブロッキング・ダイオードやバイパス・ダイオードを使用していますが、これらの影響で、電力の回収効率は決して高いとは言えませんでした。

一般的な太陽電池のブロック図
Figure 1. 一般的な太陽電池のブロック図

そこで本研究では、LSIを用いて電力の回収効率を格段に向上させる技術を開発し、その効果をフィールド(屋外)で実証しました。そのLSIを、本研究では、半導体分配器(Power Delivery Integrated Circuits: PDIC)と呼んでいます。
また、本研究では、太陽電池として、現在一般的に使われているシリコン太陽電池ではなく、色素増感太陽電池(DSSC: Dye-Sensitized Solar Cells)を利用しました。

色素増感太陽電池の動作原理
Figure 2. 色素増感太陽電池の動作原理(Grätzel, 2003, p.146, Fig.1)

色素増感太陽電池には、シリコン太陽電池と比べて、製造コストが安く、理論上の効率性も高いという長所があります。その一方で、素子のバラツキが大きい、直列接続構造にする工程が複雑になる、といった短所があります。そのため、多数の素子を並列に接続し、各素子の発電能力にバラツキがあっても、それを最適化するような仕組みが有効であると考えています。
なお、DSSCに関する研究の多くは、実験室で行われたものだと思います。しかし、実験室で太陽の代わりとして使うソーラー・シミュレータでは、発電素子一個分程度にしか照射できないため、複数の素子を接続して、その相互の影響などを評価する実験はできませんでした。また、実用化に向けては、晴天、曇り空など、実際の天候の下での評価が不可欠ですが、いままで、DSSCをフィールドで検証した事例はほとんどありませんでした。そんな中、本研究では、フィールドで、比較的長期間にわたって検証することができましたので、貴重なデータを得ることができたと考えています。

半導体分配器について

CTS: 開発したLSIについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
宮本教授: 64個のDSSC素子を並列に接続し、各素子の出力電圧を参照電圧(Vref)と比較して、Vref以上の電圧を発生している素子のみから電力を取り出すような仕組みを持つLSIです。VDEC(VLSI Design & Education Center)で製造しました。
前述したように、素子によるバラツキや環境の違い(日向のセルと日陰のセルなど)によって、各素子から出力される電圧は異なります。Vrefを変化させることによって、どの素子から電力を取り出すかを制御できるので、Vrefと総出力電力の関係を解析すれば、各環境下での最適なVref値を求めることができるはずです。また、各素子が接続されたピンには、その素子が現在のVref値以上の出力を行っているか否かを示すデータを格納するメモリを備えており、そのメモリを一括して読み出せるようになっています。従って、Vrefを変化させながらこのメモリを読み出せば、その環境下で、各素子が何Vを出力しているかを瞬時に記録することができるようになっています。

CloudTesting™ Serviceを採用した経緯

CTS: どのような経緯でCloudTesting™ Serviceを採用してくださったのでしょうか?
宮本教授: 口コミでCTSのことは知っていました。LSIの開発にあたり、評価装置を準備する必要があったのですが、パルスジェネレータ、電源、マルチメータなどを揃えるよりも、それら全てが一つにまとまったCTSの方が便利だと思い、CTSに決めました。
計測器を組み合わせたシステムだと、計測器を揃えるだけでなく、それらを制御するシステムも開発しなければなりません。また、配線間違いやパラメータの設定間違いがあると、それを見つけるのにかなり手間がかかります。計測器で組んだシステムだと、測定場所を移動するなどの理由で一旦ばらし、再度組み上げると、前と同じ状態結果にならないといったことが起こります。しかしCTSならば、計測器が一つにまとまっているので、測定環境を容易に復元できます。
コンパクトでフットプリントが小さく、場所を取らないのも良いです。フィールドで計測する際に、この小ささは便利ですね。

CloudTesting™ Serviceの役割

CTS: この研究において、CloudTesting™ Serviceはどのような役割を担いましたか?
宮本教授: DSSCとLSI(PDIC)、CloudTesting™ Stationを、Figure 3のように接続しました。 開発したLSIをCloud Testing Serviceから購入したVDEC仕様160ピン接続用DUTボードに載せて、DSSC素子をLSIに接続しています。
CloudTesting™ Stationは、LSIに供給するクロックの発生源、電源とVrefの供給源、素子の状態を示すメモリの読み出し、V-I特性の測定などに利用しました。

測定環境の接続概念図
Figure 3. 測定環境の接続概念図

実際の測定環境
Figure 4. 実際の測定環境

CloudTesting™ Serviceの印象

CTS: 実際に研究でCloudTesting™ Serviceをご利用になって、どのような印象をお持ちでしょうか?
宮本教授: 総じて、使いやすくて良い装置だと思います。LSIを評価する装置としては、コストパフォーマンスは一番だと思いますね。

測定結果

CTS: フィールドで検証した事例はほとんど無いとのことでしたが、どのような測定結果が得られたのでしょうか?
宮本教授: まず、開発したPDICが、期待通りに、DSSCからの電力を集める働きをすることが確認できました。また、PDICから情報を読み出すことによって、各DSSC素子がアクティブか非アクティブかをリアルタイムに把握できることも確認できました。これにより、DSSC素子の発電状況が、光の状態や各素子の劣化状況によってどのように変化するか、データを取ることができるようになると思います。
DSSC素子自体についても、1か月超のフィールド検証によって、経時劣化の様子を捉えることができました。今回使用したDSSC素子では、時間の経過とともに出力電流が低下し、1か月後には、初期状態の約半分まで低下することが確認できました。

今後の展開

CTS: 今回の研究は、SSDMにも採択され、大きな成果を上げることができたものと思います。今後は、どのような研究を展開されていくご予定でしょうか?
宮本教授: 本研究で開発・評価した半導体分配器は、クロック発生やリファレンス電圧(Vref)の制御、電源供給を、CloudTesting™ Serviceの測定器(CloudTesting™ Station)から行っています。将来的には、それらの機能をLSIの中にインテグレートして、LSI単体で半導体分配器として機能するものにしたいと考えています。
LSI単体で機能するものを開発できたら、そのLSIを利用するアプリケーションとして、まずはセンサーと組み合わせて使用することを考えています。このLSIをDSSCとセンサーと組み合わせて、太陽が出てきたら自動的に電源が入り、日照状況の変化に応じて発電を制御して、センサーを稼働させる、というようなものです。 さらにその先では、大電力の制御も可能にしたいと考えています。DSSCは理論上の発電効率が高く、環境への負荷も小さいと言われているので、DSSCで高効率の発電ができるようになれば、電力供給に革新をもたらすことができるのではないかと考えています。


大手半導体メーカーにて要職を歴任(※)し、研究でも多くの実績を残していらっしゃる宮本教授は、自らCloudTesting™ Serviceを使って測定プログラムの作成をされているそうです。今後もCloudTesting™ Serviceをご利用予定とのことでしたので、引き続き宮本教授の研究に注目していきたいと思います。

※宮本教授の略歴
1975年 京都大学 工学研究科電子工学専攻 修士課程修了
   株式会社東芝 半導体技術研究所 研究員
1985年 米国スタンフォード大学 客員研究員
1989年 京都大学 工学博士
2001年 株式会社東芝 先端メモリ開発センター センター長
2004年 株式会社東芝 セミコンダクター社 メモリ技師長
2005年 東芝マイクロエレクトロニクス株式会社 常務取締役
2009年 サムスン電子 フラッシュ開発室 顧問(専務)
2012年 中部大学 全学共通教育部 特任教授

引用文献
Grätzel, M. (2003). Dye-sensitized solar cells. Journal of Photochemistry and Photobiology C: Photochemistry Reviews, 4, 145-153.


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